多様性を活かす秘訣は、理念へのコミット

株式会社モンスター・ラボ 代表取締役社長 鮄川 宏樹(いながわ ひろき)氏

多様性は組織において重要だと言われるが、私たちの日常で多様性が重要な理由やその恩恵を実感することは難しい。しかし、日本国内で多様性を理念に掲げ、国内だけでなく海外でも多様な背景を持つ人と協働し、高い成果を上げている会社がある。株式会社モンスター・ラボ(本社:中目黒)だ。

2006年に創業した同社の東京本社には、現在10ヵ国の外国籍社員が在籍しており、事業の責任者や経理などを担う外国籍社員もいる。来年度の新卒入社内定者も全員国籍が異なるという。

近年は中国、ベトナム、バングラディッシュなどの拠点を活かし、アプリやシステムなど様々な開発案件を、海外の優秀なエンジニアが開発できるグローバルソーシング事業に注力しており、2013年には「セカイラボ」として子会社化した。現在は東南アジアを始めインドなど計15ヵ国にパートナー企業があり、現地で働くエンジニアの総数は1万人を超える。2015年11月に行われた4億円の資金調達によって、今後も開発拠点は世界中に増えると考えられる。

多様な背景を持つメンバーと協働し、結果を出す秘訣は「理念への共感とコミット」であるモンスター・ラボ。その多様性を組織の力に変える仕組みについて、代表取締役の鮄川 宏樹(いながわ ひろき)氏に話を伺った。


理念が組織に「多様性」をもたらした

CEO Hiroki Inagawa

Q. はじめに、貴社の設立背景と理念について教えて下さい。

私達は、2006年にインディーズアーティストが音楽を発信できるサイト「monstar.fm」で創業しました。事業のスタートは音楽ですが、音楽に限らず、多くの人にチャンスや選択肢がある世界を創るという目標は創業から変わりません。その実現に向けて、当社は「多様性を活かす仕組みを創る」、「テクノロジーで世界を変える」という2つの理念を掲げています。インターネットにより距離や時間、スペースなどの物理的な制限を超えて、情報がオープンになりました。今後は多種多様な才能を持つ人が情報を発信することができ、受け取る側も好きなものを選べることが本質的な価値になると考えています。


Q. その理念のもと、貴社にはどういった人材が集まっていますか。

当社の理念に共感し、当事者としてコミットする人材が多いです。社員の「多様性」を作るのが目的ではなく、企業理念への共感と目標達成に対する本気度を求めた結果、集まった仲間が多国籍で個性的だった感じですね。もちろん、音楽サービス事業がきっかけで日本のポップカルチャーが好きな留学生が来たり、セカイラボがきっかけで海外のエンジニアが入社する環境はあると思います。しかし、創業の早い段階から社内には外国人や様々なバックグラウンドの人がいましたし、日本の伝統的な企業とは異なる当社の社風や、自社が提供するサービスに共感する人材が集まった結果が当社の多様性だと考えています。


「多様性」は組織を強くする

Q. 「多様性」によって組織はどう変わるか、具体的に教えてください。

「多様性」がある組織では、2つのプラスの変化が生まれます。1つ目は、「多様性」によって物事の本質に近づきやすくなります。国籍以外にも、バックグラウンドや考え方、アプローチの仕方は人によって異なります。世界で通用するプロダクトやサービスを創る際に、似たような背景や価値観のメンバーのチームと、多様な視点を持つメンバーのチームでは、後者の方がより良いアウトプットを生む可能性が高いです。当たり前の事象に疑問を持ち、ゼロベースで考えることができるので、議論を通じて思考が深まり、物事の本質に近づきます。

Monstar Style

もう1つは「多様性」が組織の雰囲気を変え、目標に対して最適なアプローチができるチームになります。同じ環境にいる人が集まった組織では、文化や慣習で行動が制限されることがあります。日本人同士で集まると、空気を読んで意見が出ないことがありますよね。しかし、同じチームに意見をはっきり言う人がいれば、発言へのハードルが下がります。組織に「多様性」があることで、自分が属する文化や組織の「暗黙のルール」が排除され、目標達成のためのベストな選択肢をそれぞれのやり方から選ぶことができます。

この多様性による組織の変化を持続させるため、当社では社員の行動指針を「モンスター・スタイル」と定め、全社員が定期的な振り返りを行っています。良い結果を出すためには、(1)価値観と(2)行動の2つの車輪を回し、成長し続けることが不可欠です。そこで「モンスター・スタイル」に対する価値観と行動を自ら評価する機会を定期的に設け、「多様性」を力に変える文化を定着させ、自社で「多様性を活かす仕組みを創る」ことを体現しています。


相手の特徴を理解すれば、「多様性」がプラスに変わる

Q. 「多様性」における仕事の進め方で、苦労したことはありますか。

最初中国に拠点を作った時は、仕事の進め方が異なり苦労しました。例えば日本人は何も考えずに納期を守る傾向があるのに対し、中国では納期を守るという前提がありません。最初は納期に対するの考え方の違いで失敗もしましたが、彼らと共に仕事をする中で、「納期を守る」という事に対する優先順位のつけ方が異なる事が見えてきました。

中国人は明確な目的意識を持って行動することが多いと感じます。国の経済成長に対する捉え方も、国の成長率よりも成長によって自身に何が還元されるかを重視します。そんな彼らに納期を守る重要性だけ伝えても、意味がありませんよね。それに気づいて以来、会社や本人にとって納期を守ることの意味を明確にして仕事を進めています。彼らは専門性や技術のレベルが非常に高いので、目的意識さえ共有すれば彼らの能力が発揮され、チームとしていいプロダクトを作ることができます。

自分と異なる人と出会うと、特徴を良し悪しで捉えがちですが、相手を理解せずに責任感だけ押し付けてもうまくいきません。相手の特徴を理解し、それに応じたコミュニケーションを取ることで、それぞれの良さを引き出すことができます。それ以来何か問題があれば、相手のせいにせず、「どうすれば解決できるか」ということを考え、その人のバックグラウンドに合わせてコミュニケーションを取っています。


採用では理念へのコミットを重視

Q. 「多様性」がある組織で活躍できる人材を、どのように採用していますか。

2つの理念に共感し、「より良い世界への貢献意欲」や「異なる意見や他人への敬意」があるかを見ます。より良い世界の実現が目的であれば、異なる意見や価値観はその達成を助ける貴重な存在であり、その存在を敬うことは当社にとって不可欠です。コミュニケーション能力やスキルは後から身につきますが、考え方やスタンスは基本的には変わらないので、面接ではそこを判断します。

面接方法は各担当者で異なりますが、私は候補者の興味がある分野で議論し、様々な角度から意見をぶつけます。それにより、先入観や偏見、常識に捉われない高い目的意識があるか、あるいは反対意見を自分なりに解釈し、ゼロベースで考えられるか、を判断し当社への適性を見極めます。

CEO Hiroki Inagawa

6年前から始めた新卒採用によって、会社の理念や文化への共感度がより高い人材の比率が増えました。特に直近2年は、応募の段階から会社の理念にフィットする人材が集まっています。その背景には、採用の媒体を変更し、自社の雰囲気や文化をアピールしていることがあります。働き方に対する考え方や、会社が目指す世界に関して情報発信することで、当社を深く知り共感している人を面接できるので、中途採用社員も含めて会社へのマッチング度かかなり上がりました。

Q. 海外の採用と日本の採用では何が異なりますか。

雇用機会が限られる海外拠点での採用は、1つのポジションに数百人殺到するのが現状なので、日本のように全員を面接するのは不可能です。そのために海外では筆記試験や書類審査をしています。当社では採用は各国の代表に裁量権を持たせており、私はあまり関与しません。その代わり、彼らと理念を共有し、「どんな会社にしたいか」や「どんな人材が欲しいか」を徹底的にすり合わせることで、採用方法や採用基準は各国によって異なっても、理念に共感する人材を海外でも採用しています。


ミッションに熱中できる組織構造

Q.「多様性」があるチームが成果を出すために、組織作りに気をつけていることはありますか。

トップの意見に従うのではなく、各自が立場に関係なく「自分はこうしたい」と発言し、ミッションに対して熱中できる環境作りを心がけています。そのために、事業やプロジェクトの単位を極力小さくし、フラットな組織構造にしています。当社は事業単位で組織が分かれており、各事業部には責任者がいます。その下に中間管理職はおらず、マーケティングやプロダクト、セールスなどのチームが並んでいます。1つのチームは2〜10人で、明確なKPIに向かって少人数で作業をするので、自分の意見が言いやすく、対立構造にはなりません。

また、活発な議論を生むために、オンラインのコミュニケーションツールを活用し、常に議論できる状態を作っていたり、セキュリティに関わらないことは基本的に情報公開しています。リモートで働く社員も議論に参加できるよう、常にスカイプを繋いでいます。


異なる考えを代弁する人材が組織の「多様性」を浸透させる

Q. 海外拠点とのコミュニケーションで意識していることはありますか。

海外拠点との人の行き来は活発にして、対面で会うことを大切にしています。海外のチームとの協働を通じて、国によって異なる文化を理解し、その視点や考え方を代弁できるようになるんですね。この人材が更に移動すれば、移動先の組織に今までとは異なる考え方や価値観がもたらされ、組織の「多様性」がより濃くなります。最近は、単なる移動ではなく、日本のモンスター・ラボを辞めて海外に移籍する場合や、日本人でも最初からベトナムや中国の拠点に就職を希望する人もいて、移動がかなり盛んです。

それでもやはり、国内海外に限らず、離れていると対立構造が生じやすくなります。そこは自分も含めて、経営陣が気をつけている部分です。経営陣・メンバー同士でぶつかる時があっても、外には見せません。上の人間が相手の非を責めれば、メンバーもそれが普通だと思ってしまうので。他国間の拠点で意見の対立があった時は、自国の改善点は自国のトップが言って、相手側のメンバーには褒めたり、感謝を伝えたりします。自分のメンバーに厳しくすることをお互いに意図的に行い、良好な関係を築いています。


世界中に「多様性を活かす仕組みを創る」

Q. 鮄川さんは今後、どんなことを実現したいですか。

CEO Hiroki Inagawa

力や意志がある人が活躍できる多様な機会を世界中に創りたいです。今後、自分の国だけでビジネスをするのは、力を発揮する人材という観点でも、力を発揮する機会という面でも限界が来ます。今後の企業成長は、単に海外進出できるかでなく、多様な背景を持つ人と協働できるかにかかっています。それを可能にするのは、バックグラウンドが異なる人とチームになって、時には喧嘩もしながら仲間として仕事をする経験です。そんな機会を世界中に広げたいです。

現在バングラディッシュで開発拠点を立ち上げていますが、彼らの国では国の基盤となる産業がなく、優秀な人材が海外に流出しています。それでは自国のためにならないので、彼らと共に、ITをバングラディッシュの国家的産業にすることに貢献できるような開発企業になることを目指しています。彼らは仕事に対して非常に積極的で、自国への貢献意識も今後の事業計画への関心も非常に高いです。彼らの国に、開発拠点ができたことで、彼らが能力を発揮する場が生まれます。また、開発を依頼する側にもバングラディッシュという新しい選択肢を提供できるようになります。

このように、海外の開発拠点も「多様性を活かす仕組み」の1つです。今後世界は、テクノロジーによってもっと身近でオープンになります。世界中に「多様性を活かす仕組みを創る」ことで、住んでいる国や育った環境に関わらず、誰もが自分の才能を発揮できたり、自分が好きなものを選べることを当たり前にしたいです。機会さえあれば能力を発揮できる人材が、まだ世界中に溢れています。彼らのように、世の中に色んな価値を創造し、多様性をもたらす人材の活躍の機会を世界中に広げていきたいですね。



「多様性」を作るのが目的ではなく、世の中に「多様性を活かす仕組みを創る」ことを理念に掲げているモンスター・ラボだからこそ、その実現にコミットする人材が集まり、その結果として社内に「多様性」が生じ、それを活かすことができるのだと思います。会社の目指す姿を明確にすることは個人では厳しいかもしれませんが、自分が目指すゴールを明確にし、「チームで最高のパフォーマンス」を出すための手段をゼロベースで考えることは誰にでも可能なことです。1人1人が、結果を出すための思考やチームに対する関わり方を変えていくことが、組織のあり方を変えることに繋がるのではないでしょうか。


次回のTEAM JOURNALは、今回取材させていただいた株式会社モンスター・ラボさんのベトナムの子会社である、株式会社アジアンテックのCEO ホアン氏へのインタビューです。配信は1月29日です。