テレワークは「誰でも実現可能な、これからの働き方」

株式会社テレワークマネジメント代表取締役、田澤 由利(たざわ ゆり)氏

今でこそ広まりつつあるテレワークに、20年以上前から向き合って来た女性がいる。株式会社テレワークマネジメントの代表取締役、田澤 由利(たざわ ゆり)氏だ。

結婚後、夫の転勤に付き添い地方を転々とし、育児をしながら家で仕事を続けてきた彼女。その取り組みは「働きたいのに働けない」多くの女性の共感を呼び、彼女達の働き方を変えるべく、1998年にワイズスタッフを設立。その10年後には、テレワークマネジメントを設立し、現在は女性活躍はもちろん、地方創生の一環として、国政や行政と共に、人材誘致のための「ふるさとテレワーク」にも尽力している。テレワークの仕掛け人である彼女に、テレワークを実践する具体的な仕組みについて話を伺った。

(*リモートワークは、離れた場所で仕事をすることで、テレワークは、「場所や時間にとらわれず柔軟に働くこと」です。)


起業だけでは世の中の働き方は変わらない

Q. 会社設立の背景と、現在の活動について教えてください。

私は1985年にシャープに入社し、商品企画を担当していました。チームで働くことがとても楽しく、一生働きたい環境でした。しかし、入社6年目に結婚を機に退職して、その後は独立し、自宅をベースにPC関連のライターをしていました。当時、モチベーションの高い女性が会社で働き始めた時期でしたが、働き続けるための文化や制度が整っておらず、大半が結婚を機に退職をしていました。フリーランス時代に、結婚後も柔軟に働くことを希望しているたくさんの女性がいることを知り、女性がライフイベントにかかわらず働ける社会を作りたいと考え、1998年にワイズスタッフを設立しました。

在宅で働ける優秀な人材を集めて、チームで働く。これが新しいビジネスモデルとして成り立つことを証明すれば、世の中が変わると考えたからです。しかし、残念ながら、所詮は受注企業。企業として成り立ちはするものの、世の中を変えるほどには至りませんでした。そこで、世の中の働き方を変えるには、直接、企業側の働き方を変えるべきだと気付きました。何万人も社員がいる企業にテレワークを適切に導入できれば、多くの人の働き方が変わるので、そちらの方が効率的だと。さらに、企業を変えるためには、国に対して提案することも重要だと気づき、現在は国と企業の両者を巻き込み、テレワークを推進しています。


雇用されている人の働き方を変えることで、世の中を変える

Q. 現在新しい働き方としてクラウドソーシングが注目されています。クラウドソーシングとテレワークの違いを教えてください。

CEO Yuri Tazawa

テレワークの定義は「ICTを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」です。テレワークには雇用形態として「自営型」と「雇用型」があり、オフィス以外の働く場所として「モバイル型」と「在宅型」があります。 クラウドソーシングは自営型なので、そもそもテレワーカーということになります。ただ地方に住んでいると、仕事が取りにくい現状があります。クラウドソーシングはそういった働き方をしている自営型テレワーカーと、企業を結ぶインターネットサービス、いわば企業と個人のマッチングの仕組みです。

一方、テレワークは働き方です。日本は8割の方が企業に雇用されていますが、彼らの働き方は時間や場所に制限があります。子育てや親の介護、病気で仕事を離れることは誰にだって起こる可能性はあります。そういった際にも柔軟に働くことができる労働環境を整えていかないと、企業は良い人材を確保することができません。そのため、テレワークによって「柔軟な働き方」ができる社会を作ることが大切だと考えています。


「仕事のやり方」を変えることで実現する「日本型」のテレワーク

Q. なぜ企業にとってもテレワークは必要なのでしょうか。

テレワークは人材確保の手段です。日本の人材不足はこれから30年以上続きます。今いる優秀な人が継続的に働き、彼らの生産性を高めるために、働き方に柔軟性を持たせるのが企業にとって不可欠です。しかし、残念ながら、多くの企業が「テレワークだと仕事が限られる」と勘違いしています。業種や職種が異なるから自分達には無縁だと。その意識を改めて、テレワークでも仕事ができるように、「仕事のやり方」を変えない限り、いくらテレワークを導入しても生産性は向上しません。

日本の仕事の進め方、報酬、制度は、テレワークが進んでいると言われるアメリカと全く異なります。そのため、日本の特徴を残したまま、テレワークを実践することが大切です。私が提案する「日本型」のテレワークには3つのポイントがあり、ツールや制度を工夫することで、社内でテレワークを実践しています。


「ネットオフィス」で普段通りのコミュニケーションを可能にする

Q. 「日本型」のテレワークのポイントを具体的に教えてください。

1つ目のポイントは、対面でコミュニケーションを取りながらチームで仕事をする「大部屋主義」の仕事の進め方を、テレワークでも実践することです。日本は帰属意識が高く、チームで働くことを大切にします。テレワークを導入する際に、「顔が見えないことへの不安」や「孤独」を感じるために、導入に抵抗をもつ企業・個人が圧倒的に多いのもこのためです。

CEO Yuri Tazawa

当社では、創業当初から、ネット上でいつでもコミュニケーションを取れる、「ネットオフィス」を活用しています。バーチャルなオフィスで、今誰が、どこで、何をしているかを把握し、いつでも話しかけることができます。私達のネットオフィスにはデスク、ラウンジ、応接室、社長室、会議室があり、自分の居場所をクリックすれば、簡単に移動することができます。また応接室にいれば営業中、ラウンジに入れば休憩中といったように、他の人が今何をしているか常に確認することができます。また、カメラやマイクを通じ、顔を見ながら話すことができるので、実際の会社にあるような、個別にMTGをすることや、移動のタイミングを見計らったコミュニケーションが可能になります。


「自分宛の連絡」も「何気ない会話」も逃さない報・連・相の仕組み

2つ目のポイントは、業務の細やかなやり取りを含めた「報・連・相」を、ネット上に社員がいつでも見られる形で記録していくことです。すれ違った時の会話や何気なく聞こえてきた会話からクリエイティブな発想が生まれる、とよく言われますが、それをオープンな形にすることが大切です。

Promail

当社では、社員に連絡をする際に、全体に共有しつつも、誰宛のメールなのかはっきりし、そして件名に必ず結論を書きます。自分宛のメールは赤く表示されるので、自分宛のメールと、自分以外に宛てたメールの見分けがつきます。その結果、自分以外に宛てたメールでも、結論に至った経緯の把握や、「ちょっと横から失礼!」と議論に入ることも可能です。

さらに、このなんとなく「聞こえてくる会話」について、今社内で「バーチャルオフィス内で、フリーアドレスで仕事をしたらどうなるか」という新しい実験をしています。ネット上のオフィスでも、普段とは異なるコミュニケーションが生まれ、テレワークでも新しい発想に繋がるのではないか、と思っています。まだ始めたばかりですが、この効果を見るのが非常に楽しみです。


細かな時間管理で安心が生まれ、生産性が向上する

3つ目のポイントは、離れていても時間をしっかり管理することです。これは賛否両論ありますが、日本は労働時間が法律で決まっている以上、必要と考えます。管理しなければいけないのは「成果」と「時間」であり、それによる報酬のあり方も変えることで、働く人の意識を変えることが大事です。 労働の報酬に関してはアメリカ型の「成果報酬」と日本の「労働時間報酬」がありますが、これからは「時間あたりの生産性」で考えるべきです。成果のみで評価すると、時間のある人が有利になり、過剰労働が生まれます。反対に時間のみで評価すると、今の日本のように、長時間働く人がお給料をもらえる状況になり、生産性は向上しません。

そのため、当社では出勤退勤以外にも離着席を記録することで、細かな時間管理を行っています。また、テレワーカーが稼働しているかは、WEB上のツールで確認できます。これにより、管理者に安心感を与え、見られていないことへの不安から働く人が過剰労働になるのを防ぐことが可能です。


フェアな制度のカギは「時間あたりの生産性」と「働き方手当」

厚生労働省は、テレワークでも報酬を変更しないよう推奨していますが、私の考えは少し違います。なぜなら、時間と労力をかけて通勤している人たちに対してフェアではなくなるからです。そのため当社では、何に対しての給与なのかを「時間あたりの生産性×労働時間+α(働き方手当)」で考えています。

working way allowance

例えば、ある社員の月給が今30万円だとします。多くの日本企業はこの報酬の評価をほぼ「成果+時間+頑張っている様子」で判断しています。一方、当社では時間管理を徹底しているので、その社員の成果を時間で割ることで「時間あたりの生産性」を導くことができます。この社員の「時間あたりの生産性」は1500円だとすると、基本給与はこれをベースにして1500円×8時間×5日×4週間で24万円です。この基本給与に対し「働き方手当て」をつけます。例えば、「週5日勤務手当て」「定時勤務手当て」「出社手当て」などがあり、これらを合計した金額が月給となります。


この社員が、例えば親が病気になって、出社と定時勤務が難しくなったとします。その場合、「出社手当て」と「定時勤務手当て」は無くなります。しかし、限られた時間で今まで以上の成果を出して、「時間あたりの生産性」が1800円にあがるかもしれません。そうすれば、在宅勤務中のベース給与も上がり、フルタイムで復帰した時はこのベースになるので、復帰後に昇級している、という仕組みを作ることができます。 人は、時間が限られると生産性があがります。これからは時間や場所に制限がある人が増えるので、時間管理を徹底し、「時間あたりの生産性」を追求する必要があります。テレワークは時間と場所が柔軟になるだけで、自由になるわけではありません。時間と場所に制限がある人、無い人の両者にとってフェアで正当に評価される仕組み作りが重要です。


目指すのは時間や場所にとらわれず柔軟に働ける社会

Q. 田澤さんが目指す働き方について教えてください。

CEO Yuri Tazawa

目指すのは、在宅に限らず、時間や場所にとらわれず柔軟に働ける社会です。その結果、地方で働くことを選択できる人が増えるのが一番だと思います。私自身地方を転々としたこともあり、地方が大好きです。「本当は地方で暮らしたいのに、暮らせない」というのは、自分が働きたいのに働けなかった過去と同じものがあるので、みんなが柔軟に働ける方が健全ですし、仕事が自由になれば、世の中は変わるし、色々な課題も解決できると思うのです。 本当に自分が好きな場所で、自分のライフスタイルに合わせて仕事ができ、豊かに暮らせる社会を実現したいです。